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数字で判断できる経営者と、感覚で判断する経営者の5年後の決定的な差 | 再現性のある成長vs運任せの経営

「なんとなく」で決めていませんか

「今月は売上が伸びた気がする」「あのお客さんは満足しているはずだ」「そろそろ人を増やした方がいいかな」——。

こうした「感覚」で経営判断をしていませんか?

私がこれまで支援してきた経営者の中には、長年の経験と勘を頼りに、見事に会社を成長させてきた方がたくさんいます。しかし、その一方で、同じように経験豊富でも、ある時点から急に業績が悪化し、立ち直れなくなってしまった経営者も数多く見てきました。

両者の違いは何だったのか。それは、「数字を使いこなせるかどうか」という一点に集約されます。

感覚で判断する経営と、数字で判断する経営。スタート地点では大きな差はありません。しかし、3年後、5年後を見ると、その差は決定的なものになっていきます。

本記事では、なぜ数字で判断できる経営者は再現性のある成長を実現できるのか、そして感覚経営がなぜ「運任せ」になってしまうのかを、実例を交えながら解説します。

5年後、決定的な差が生まれる理由

実例:同じスタートラインから分かれた2人の社長

ある地方都市に、同じ業界で同じ時期に起業した2人の社長がいました。どちらも年商は1億円程度、社員は10名ほど。実力も人柄も申し分ない、優秀な経営者でした。

A社長は、長年の現場経験から培った「勘」を大切にする経営者でした。「お客さんの表情を見れば、満足度がわかる」「この商品は売れる気がする」——そうした感覚を頼りに、素早く意思決定をしていました。

B社長は、現場経験も豊富でしたが、それに加えて「数字」を重視する経営者でした。売上だけでなく、粗利率、顧客単価、リピート率、キャッシュフロー——様々な数字を毎月チェックし、それをもとに判断していました。

最初の2年間は、両社とも順調に成長しました。むしろ、A社の方が勢いがあるようにも見えました。「数字なんて気にせず、お客様第一で動く」というA社長の姿勢は、社員からも支持されていました。

しかし、3年目から状況が変わり始めました。

市場環境が変化し、競合が増え、価格競争が激しくなってきたのです。そのとき、A社長は「お客様のために値下げしよう」と即座に決断しました。売上は維持できましたが、利益は大幅に減少しました。

一方、B社長は数字を見て、こう判断しました。「値下げをすると、粗利率が30%から20%に下がる。売上を維持するためには、今の1.5倍の顧客が必要になる。それは現実的ではない」。そして、値下げではなく、付加価値を高めるサービスを開発する道を選びました。

5年後、A社は売上こそ1.5億円に伸びましたが、利益はほとんど残らず、資金繰りに苦しんでいました。B社は売上2億円、利益率も維持し、次の投資の準備を進めていました。

この差は、決して「運」ではありません。「数字で判断できるかどうか」という構造的な違いが生んだ結果なのです。

感覚経営の限界——「たまたま」は続かない

感覚で経営判断をすることが、必ずしも悪いわけではありません。特に、創業期や小規模なうちは、経営者の「勘」が大きな武器になります。

しかし、問題は「再現性がない」ことです。

感覚による判断が当たったとき、それは「なぜ当たったのか」が説明できません。逆に、外れたときも「なぜ外れたのか」がわかりません。つまり、成功も失敗も「たまたま」になってしまうのです。

経営コンサルタントの中には、「成功の再現性こそが、ビジネスの本質だ」と説く人もいます。一度成功したことを、何度でも繰り返せる。そのためには、「なぜ成功したのか」を数字で説明できなければなりません。

感覚経営の最大の問題は、この「再現性」が担保できないことです。調子が良いときは問題ありませんが、環境が変化したとき、何をどう修正すればいいのかがわからなくなります。

数字経営がもたらす「予測力」

一方、数字で判断する経営者は、「予測」ができます。

たとえば、「顧客単価を10%上げれば、売上は何%増えるか」「粗利率を5%改善すれば、利益はいくら増えるか」「新規顧客を月に何人獲得すれば、来期の目標に到達できるか」——こうした質問に、明確に答えられます。

さらに重要なのは、「もし〜だったら」というシミュレーションができることです。

「もし原材料費が10%上がったら、利益はどうなるか」「もし主力商品の売上が20%減ったら、どの商品でカバーできるか」——こうした「最悪のシナリオ」を事前に想定し、対策を準備できるのです。

これが、数字経営がもたらす「予測力」です。そして、この予測力こそが、再現性のある成長の源泉なのです。

再現性のある成長とは何か

成功を「偶然」から「必然」に変える

再現性のある成長とは、「なぜ成功したのか」が明確で、それを何度でも繰り返せる状態のことです。

たとえば、ある商品が売れたとします。感覚経営の場合、「お客さんが気に入ってくれた」で終わります。しかし、数字経営の場合、こう分析します。

  • どの顧客層に売れたのか(年齢、性別、地域、業種など)
  • どのチャネルから購入したのか(店頭、Web、紹介など)
  • 購入に至るまでに何回接触したのか
  • 平均単価はいくらか
  • リピート率はどのくらいか

これらの数字を分析することで、「なぜ売れたのか」が見えてきます。そして、その「売れる理由」を再現することで、同じ成功を繰り返すことができるのです。

ある海外のマーケティングコンサルタントは、「価値を増幅させる」という考え方を提唱しています。一度うまくいったことを、さらに大きく展開する。そのためには、「なぜうまくいったのか」を数字で把握することが不可欠だと言います。

数字が「共通言語」になる

数字経営のもう一つの大きなメリットは、社内のコミュニケーションが円滑になることです。

社長が「もっと頑張れ」と言っても、社員には伝わりません。しかし、「今月の目標は売上1000万円、粗利率は35%以上」と数字で示せば、誰もが同じゴールを見ることができます。

さらに、進捗も共有できます。「今月15日時点で売上600万円、達成率60%」という数字があれば、「あと10日で400万円必要だから、1日あたり40万円のペースが必要だ」と、具体的なアクションが見えてきます。

私が支援してきた企業の中で、業績が伸びている会社には共通点があります。それは、社長だけでなく、現場のリーダーも数字を使いこなしているということです。

数字が「共通言語」になることで、組織全体の意思決定の質が上がり、成長のスピードが加速するのです。

「運任せ」からの脱却

感覚経営は、言い換えれば「運任せ」の経営です。うまくいけば続けるし、うまくいかなければ別のことを試す。しかし、その「うまくいく確率」は、コントロールできません。

一方、数字経営は、確率をコントロールできます。

たとえば、「100人に営業をかけて、10人が契約する」という数字がわかっていれば、「20人の新規顧客が欲しければ、200人に営業をかければいい」と逆算できます。これは「運」ではなく、「計画」です。

もちろん、数字だけですべてが解決するわけではありません。お客様の気持ちを理解し、現場の声を聞き、柔軟に対応する——こうした「感覚」も大切です。

しかし、その感覚を「数字」で裏付けることで、経営は「運任せ」から「計画的」に変わります。そして、それこそが再現性のある成長の本質なのです。

数字を「読める・見える・使える」に変える

多くの経営者が陥る「数字アレルギー」

「数字が大事なのはわかっている。でも、苦手なんです」——こう話す経営者は少なくありません。

確かに、決算書は複雑です。貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書——専門用語が並び、どこを見ればいいのかわからない。多くの経営者が、税理士に任せきりにしてしまう理由も、よくわかります。

しかし、ここで重要なのは、「会計の専門家になる必要はない」ということです。経営者に必要なのは、「数字を経営判断に使えるようにする」ことであって、「簿記の資格を取る」ことではありません。

私が提唱しているのは、数字を「読める・見える・使える」の3ステップで捉える考え方です。

ステップ1:「読める」——数字の意味を理解する

まず最初のステップは、数字の意味を理解することです。

たとえば、「粗利率」という言葉を聞いて、それが何を意味するのか、すぐに説明できますか?「売上総利益率」と同じ意味で、売上から原価を引いた利益の割合のことです。

この粗利率が、なぜ重要なのか。それは、「商品やサービスの稼ぐ力」を示す数字だからです。粗利率が高ければ高いほど、少ない売上でも多くの利益を残せます。逆に、粗利率が低いと、いくら売上が伸びても利益が残りません。

こうした「数字の意味」を理解することが、第一歩です。難しい専門用語を覚える必要はありません。自分の会社にとって重要な5〜10個の数字の意味を、しっかり理解すればいいのです。

ステップ2:「見える」——数字から現状を把握する

次のステップは、数字から会社の現状を把握することです。

たとえば、先月の粗利率が30%だったとします。これは高いのか、低いのか。業界平均と比べてどうなのか。昨年の同じ月と比べて、上がっているのか下がっているのか。

こうした「比較」をすることで、数字が「見える」ようになります。単なる数値の羅列が、会社の健康状態を示す「診断書」に変わるのです。

私が現場で使っているのは、「会社の健康診断」という考え方です。人間ドックで血圧や血糖値をチェックするように、会社も定期的に数字をチェックする。そして、異常値があれば、早めに対策を打つ。これが、数字を「見える」ようにする基本です。

ステップ3:「使える」——数字をもとに意思決定する

最後のステップは、数字をもとに意思決定することです。

たとえば、粗利率が前年比で5%下がっていることがわかったとします。ここで、「どうしよう」と悩むのではなく、「なぜ下がったのか」を数字で分析します。

  • 原価が上がったのか
  • 値引きが増えたのか
  • 低粗利率の商品の構成比が増えたのか

原因がわかれば、対策も見えてきます。原価が上がったなら、仕入先を見直すか、販売価格を調整する。値引きが増えたなら、営業方針を変える。低粗利率の商品が増えたなら、商品構成を見直す。

このように、数字をもとに具体的なアクションを決めることが、「使える」レベルです。

ここまで来ると、数字は「難しいもの」ではなく、「意思決定を助けてくれる羅針盤」になります。

今日からできる数字経営への転換

まず「3つの数字」だけを追いかける

「数字経営を始めよう」と思ったとき、多くの経営者が最初に失敗するのは、「あれもこれも」と欲張ってしまうことです。

決算書にはたくさんの数字が載っています。しかし、すべてを追いかける必要はありません。まずは、自社にとって最も重要な「3つの数字」だけを決めてください。

私が支援する企業には、まずこの3つをお勧めしています。

  • 売上高:会社の規模を示す基本の数字
  • 粗利率:稼ぐ力を示す数字
  • 営業キャッシュフロー:実際に手元に残るお金を示す数字

この3つを、毎月チェックする。前月と比較する。前年同月と比較する。そして、変化があれば、その理由を考える。

これだけで、経営の見え方が大きく変わります。

数字を「日常会話」にする

数字経営を定着させるコツは、数字を「日常会話」にすることです。

朝礼で「今日の目標は売上50万円です」と伝える。ミーティングで「今月の粗利率は33%で、目標の35%に届いていません。あと2%上げるために、何ができるか考えましょう」と話す。

こうして、社長が日常的に数字を使うことで、社員も自然と数字を意識するようになります。

ある製造業の社長は、毎朝、工場の掲示板に「昨日の生産数」「今月の累計」「目標までの残り」を書くようにしました。最初は誰も気にしていませんでしたが、3ヶ月後には、社員が自主的に「今日は目標まであと100個ですね」と声をかけ合うようになったそうです。

数字を「特別なもの」ではなく、「日常のもの」にする。これが、数字経営を根付かせる秘訣です。

「未来の数字」を描く習慣

多くの経営者が見ているのは、「過去の数字」です。先月の売上、前年の利益——これらは確かに重要ですが、それだけでは不十分です。

本当に重要なのは、「未来の数字」です。

来月の売上はいくらになりそうか。来期の利益はどのくらい見込めるか。3年後、会社はどんな姿になっているか。

こうした「未来の数字」を描くことで、今何をすべきかが見えてきます。そして、その「未来の数字」に向かって、毎日の行動を積み重ねていく。これが、再現性のある成長を実現する経営です。

私がお勧めしているのは、「未来キャッシュフロー予測」という手法です。今の状態が続いたら、6ヶ月後の手元資金はいくらになるか。新しい投資をしたら、どう変化するか。こうしたシミュレーションをすることで、安心して攻めの経営ができるようになります。

まとめ:5年後、あなたはどちらの経営者になっていますか

数字で判断できる経営者と、感覚で判断する経営者。両者の差は、最初は小さなものです。しかし、時間が経つにつれて、その差は決定的なものになっていきます。

感覚経営は、「運任せ」です。うまくいくときもあれば、うまくいかないときもある。その違いは、コントロールできません。

一方、数字経営は、「再現性」があります。成功の理由がわかるから、それを繰り返せる。失敗の理由がわかるから、次は避けられる。そして、未来を予測できるから、安心して挑戦できる。

5年後、あなたの会社はどうなっていますか?

売上は伸びているけれど、利益は残らず、資金繰りに追われている——そんな状態でしょうか。それとも、着実に利益を積み上げ、次の成長に向けた投資の準備を進めている——そんな状態でしょうか。

その分岐点は、「今、数字を使いこなせるようになるかどうか」にかかっています。

数字は、難しいものではありません。専門家になる必要もありません。ただ、自社にとって重要な数字を「読めて、見えて、使える」ようにする。それだけで、経営は大きく変わります。

今日から、3つの数字を追いかけてみてください。毎月、それを比較してみてください。そして、その数字をもとに、一つでも意思決定をしてみてください。

それが、再現性のある成長への第一歩です。そして、5年後、あなたは必ず「あのとき、数字経営に転換して良かった」と思える日が来るはずです。

意思決定の質を高める——それは、数字を味方につけることから始まります。

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