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月次決算が遅い会社が失っている「意思決定の機会損失」は年間いくらか

「先月の数字、まだ出てないの?」──その間に失われているもの

ある製造業の社長J氏(52歳)から、こんな相談を受けました。

「月次決算が、いつも月末から20日後にようやく出てきます。でも、その頃にはもう翌月の半ばです。先月の数字を見ても、『ああ、そうだったのか』と思うだけで、何をすればいいのか分からないんです」

J氏の会社は、年商5億円。月商約4,000万円です。

20日後に出る月次決算を見て、「先月の売上は3,800万円。目標の4,000万円に対して200万円足りなかった」と知ります。

でも、その時点で何ができるでしょうか?

先月の数字を見ても、先月には戻れません。今月ももう半分過ぎています。「来月頑張ろう」と思っても、もう手遅れの案件がいくつも流れています。

これが、「月次決算が遅い会社」の現実です。

私が30年以上、中小企業の財務支援に携わってきて確信したこと──それは、**月次決算の遅さは、単なる事務作業の問題ではなく、経営判断の機会損失を生んでいる**ということです。

今回は、月次決算が遅い会社が年間いくら損しているのか、その機会損失を具体的な数字で示します。

 

月次決算が遅い会社の3つの機会損失

機会損失①:売上修正の機会を逃す

最初の機会損失は、「売上修正の機会」です。

例えば、月商4,000万円が目標の会社で、月半ばに「今月は3,500万円ペースだ」と分かったとします。

目標に対して500万円足りません。

でも、まだ月の半分あります。1日あたり約30万円の追加売上を作れば、目標を達成できます。

「既存顧客にもう一押しの営業をする」「在庫処分セールを前倒しする」「休眠顧客に連絡する」──打てる手はあります。

でも、月次決算が20日後なら、この機会を完全に逃します。

先月の数字を見て「500万円足りなかった」と知っても、もう先月には戻れません。

**売上修正の機会損失:月500万円×12ヶ月=年間6,000万円の売上機会損失**

もちろん、毎月500万円増やせるわけではありません。でも、年間で3〜4回、月次早期化で売上修正ができれば、年間1,500〜2,000万円の売上増加は十分可能です。

粗利率30%なら、**年間450〜600万円の粗利増加**です。

機会損失②:コスト削減の機会を逃す

二つ目の機会損失は、「コスト削減の機会」です。

ある卸売業K社では、月次決算が遅く、「先月の販管費が予算を100万円オーバーしていた」と20日後に知りました。

原因を調べると、「広告費」が予算の2倍になっていました。営業担当が、効果の薄い広告に無駄な費用をかけていたのです。

でも、それを知ったのは20日後。その間、同じ広告がずっと掲載され続けていました。

もし、月次決算が5日後に出ていれば、すぐに広告を止められました。無駄な費用は最小限で済みました。

**コスト削減の機会損失:月100万円×12ヶ月=年間1,200万円のコスト機会損失**

実際には、毎月100万円削減できるわけではありません。でも、年間で2〜3回、早期発見でコスト削減ができれば、**年間200〜300万円のコスト削減**は可能です。

機会損失③:投資判断の機会を逃す

三つ目の機会損失は、「投資判断の機会」です。

製造業L社では、「新しい設備を導入すべきか」を検討していました。

社長は、「今月の利益が300万円以上なら、設備投資を決断する」と決めていました。

でも、月次決算が20日後。その時点で「先月の利益は320万円だった」と知りました。

社長は設備投資を決断しました。でも、発注から納品まで2ヶ月。実際に稼働するのは3ヶ月後でした。

もし、月次決算が5日後に出ていれば、2週間早く設備投資を決断できました。2週間早く稼働すれば、2週間分の増産効果があります。

月間増産効果が100万円なら、2週間で約50万円の機会損失です。

**投資判断の機会損失:案件あたり50万円×年間4件=年間200万円の機会損失**

これらを合計すると、月次決算が遅いことによる**年間の機会損失は、850〜1,100万円**になります。

年商5億円の会社なら、**売上の1.7〜2.2%に相当**します。

スピード経営とは何か──将棋に学ぶ「読みのスピード」

将棋の「秒読み」と経営の「月次」

将棋には、「持ち時間」があります。プロの対局では、各棋士に2時間から8時間の持ち時間が与えられます。

持ち時間がなくなると、「秒読み」に入ります。1手30秒または60秒以内に指さなければなりません。

秒読みに入ると、棋士は瞬時に判断しなければなりません。長考している余裕はありません。

でも、トップ棋士は、秒読みでも正確な判断をします。

なぜでしょうか?

それは、**盤面を見た瞬間に、状況を把握できるから**です。

「駒の配置」「攻めと守りのバランス」「次の手の選択肢」──それらを瞬時に読み取ります。

経営も同じです。

月次決算が早ければ、経営者は**会社の状況を瞬時に把握**できます。

「売上の進捗」「利益の状況」「キャッシュの残高」──それらを見て、次の手を即座に決められます。

これが、「スピード経営」です。

リアルタイム経営の威力

私が支援したある会社では、月次決算を「翌月5日」まで早期化しました。

すると、経営会議の質が劇的に変わりました。

【早期化前】
月次決算:翌月20日
会議内容:「先月の数字を見て、反省する」
社員の反応:「分かりました。来月頑張ります」(でも、具体的に何をするかは不明)

【早期化後】
月次決算:翌月5日
会議内容:「先月の数字を見て、今月の行動を決める」
社員の反応:「今月は〇〇をやります」(具体的な行動が決まる)

この違いは、**意思決定のタイミング**です。

月次決算が早ければ、「今月まだ間に合う」という感覚で動けます。

月次決算が遅いと、「もう今月も半分過ぎた。来月頑張ろう」となります。

この15日の差が、**経営の機動力を決定的に変える**のです。

財リンガル経営:数字を即座に読む力

私が提唱する「財リンガル経営」の3段階は、「読める→見える→使える」です。

月次決算が遅い会社は、この3段階が全て遅れます。

【月次決算が遅い】
読める:20日後
見える:22日後(原因分析に2日)
使える:25日後(対策立案に3日)
→ もう翌月も終盤。手遅れ。

【月次決算が早い】
読める:5日後
見える:6日後(原因分析に1日)
使える:7日後(対策立案に1日)
→ まだ今月の3週間残っている。十分間に合う。

この差が、**年間850〜1,100万円の機会損失**を生むのです。

実例:月次早期化で年間1,000万円の利益増を実現したM社

背景:月次決算が25日後だった会社

年商8億円の物流業M社。月次決算は、いつも翌月25日に出てきました。

社長のM氏は、毎月の経営会議で「先月の数字」を見て、「ああ、そうだったのか」と思うだけでした。

「先月の売上は目標に届かなかった」「経費が予算をオーバーしていた」──そんな報告を聞いても、何もできませんでした。

M氏は言いました。「数字を見るのが嫌になってきました。見ても、何もできないから」

これが、月次決算が遅い会社の典型的な症状です。

転機:月次決算を5日後に早期化

私がM社を訪問したとき、M氏に提案しました。

「月次決算を、翌月5日までに出しましょう。そうすれば、経営が変わります」

M氏は、最初は半信半疑でした。「そんなに早く出せるんですか? うちの経理は2人しかいないんですが」

私は答えました。「大丈夫です。やり方を変えれば、必ずできます」

私たちは、経理業務を徹底的に見直しました。

**【改善1:日次で仕訳を入力】**
従来:月末にまとめて入力
改善後:毎日30分、その日の仕訳を入力
効果:月末の作業が激減

**【改善2:クラウド会計の導入】**
従来:手作業でExcelに転記
改善後:銀行口座・クレカ自動連携
効果:入力時間が半減

**【改善3:経費精算の即日処理】**
従来:月末にまとめて承認
改善後:その日のうちに承認・入力
効果:月末の残業がゼロに

**【改善4:在庫チェックの自動化】**
従来:月末に手作業で棚卸し
改善後:在庫管理システムで自動計算
効果:棚卸し時間が1/10に

これらの改善により、月次決算は**翌月5日**に出せるようになりました。

所要期間は、25日→5日。**20日間の短縮**です。

結果:年間1,000万円の利益増加

月次決算が早くなってから、M社の経営が変わりました。

**【効果1:売上修正】**
月の前半で、「今月の売上が目標に届かない」と分かれば、すぐに営業アクションを起こせます。

年間3回、月次早期化で売上修正ができました。
売上増加:月平均500万円×3回=1,500万円
粗利増加(粗利率25%):375万円

**【効果2:コスト削減】**
月の前半で、「経費が予算をオーバーしている」と分かれば、すぐにコスト削減ができます。

年間4回、無駄な経費を早期発見しました。
コスト削減:月平均100万円×4回=400万円

**【効果3:投資判断の加速】**
設備投資や人員採用の判断が、平均2週間早くなりました。

早期稼働による効果:年間250万円

**合計効果:375万円+400万円+250万円=1,025万円**

M氏は、こう振り返ります。

「月次決算が早くなって、経営が『生きた数字』で動かせるようになりました。以前は『過去の記録』を見ているだけでしたが、今は『現在進行形の経営』ができています」

「年間1,000万円の利益増は、想像以上でした。月次早期化への投資は、クラウド会計の導入費50万円と、経理の残業削減で浮いた人件費。実質的な追加投資はゼロに近いです」

「こんなに効果があるなら、もっと早くやればよかった」

 

今日から実践できる「月次早期化」3ステップ

では、あなたの会社も月次決算を早期化するには、どうすればいいのでしょうか。具体的な3ステップをお伝えします。

ステップ1:現状の「ボトルネック」を特定する

最初のステップは、なぜ月次決算が遅いのか、ボトルネックを特定することです。

多くの会社で、ボトルネックは以下の4つです。

  • ①月末に仕訳をまとめて入力している
  • ②経費精算の承認が遅い
  • ③在庫チェックに時間がかかる
  • ④銀行の入出金照合に時間がかかる

あなたの会社は、どれに当てはまりますか?

まず、経理担当者に聞いてください。「月次決算で、最も時間がかかっている作業は何ですか?」

その作業が、ボトルネックです。

実践方法:

  • 経理担当者に「月次決算の作業リスト」を作成してもらう
  • 各作業の所要時間を記録する
  • 最も時間がかかっている作業を特定する

ステップ2:「日次化」と「自動化」で時間を圧縮する

二つ目のステップは、ボトルネックを「日次化」と「自動化」で解消することです。

**【日次化】**
月末にまとめてやっている作業を、毎日少しずつやります。

例:仕訳入力
従来:月末に300件まとめて入力(5時間)
日次化:毎日10件入力(1日10分×30日=5時間)
効果:月末の作業がゼロになる

**【自動化】**
手作業でやっている作業を、システムで自動化します。

例:銀行入出金の照合
従来:通帳を見ながら手作業で照合(2時間)
自動化:クラウド会計で自動連携・照合(5分)
効果:時間が1/24に削減

実践方法:

  • 日次化できる作業:毎日30分、その日の作業をする習慣をつける
  • 自動化できる作業:クラウド会計・経費精算システムを導入する
  • 投資額:月額5,000円〜20,000円程度で十分

ステップ3:「翌月5日締切」を目標に設定する

三つ目のステップは、明確な目標を設定することです。

「月次決算を早くしましょう」では、目標が曖昧です。

「翌月5日までに、月次決算を完成させる」と明確にします。

そして、その目標を経理担当者と共有します。

「5日締切は難しい」と言われるかもしれません。

その場合は、段階的に目標を設定します。

第1ステップ:翌月15日(現状が20日なら、まず5日短縮)
第2ステップ:翌月10日(さらに5日短縮)
第3ステップ:翌月5日(最終目標)

3ヶ月で、翌月5日を達成します。

実践方法:

  • 経理担当者と「月次早期化プロジェクト」を立ち上げる
  • 毎月、進捗を確認し、改善点を議論する
  • 達成したら、経理担当者を褒める(ボーナスや表彰)

この3ステップを実践することで、あなたの会社も月次決算を早期化できます。

よくある質問:「経理担当者が嫌がらないか?」

月次早期化を提案すると、経理担当者から反発されることがあります。

「今でも忙しいのに、もっと早く出せと言われても無理です」

これは、よくある反応です。

でも、実は**月次早期化は経理担当者の負担を減らす**のです。

なぜでしょうか?

従来の方法では、月末に作業が集中します。月末の数日間、残業続きになります。

でも、日次化すれば、毎日少しずつ作業します。月末の残業がなくなります。

M社の経理担当者は、こう証言しています。

「最初は『また仕事が増えるのか』と思いました。でも、実際にやってみたら、月末の地獄のような残業がなくなりました。毎日30分の作業で、月末は定時で帰れます。今の方がずっと楽です」

経理担当者にとっても、月次早期化はメリットがあるのです。

チェックリスト:あなたの会社の月次決算は大丈夫?

あなたの会社の月次決算を、以下のチェックリストで確認してください。

  • □ 月次決算は翌月10日以内に出ている
  • □ 仕訳入力は日次で行われている
  • □ クラウド会計で銀行口座が自動連携されている
  • □ 経費精算は即日処理されている
  • □ 在庫チェックはシステム化されている
  • □ 月次決算の数字を見て、具体的な行動が決まっている

6つのうち、いくつチェックがつきましたか?

4つ以上なら、あなたの会社はスピード経営ができています。

3つ以下なら、改善の余地があります。今すぐ月次早期化プロジェクトを始めてください。

 

月次早期化の投資対効果──年間1,000万円のリターンを得る

投資:実質的にはほぼゼロ

月次早期化に必要な投資は、以下の通りです。

**【システム投資】**
クラウド会計:月額5,000〜20,000円
経費精算システム:月額3,000〜10,000円
合計:月額8,000〜30,000円(年間10〜36万円)

**【人件費】**
経理担当者の残業削減:月20時間×時給3,000円=月6万円削減
年間削減効果:72万円

**実質投資:10〜36万円 − 72万円 = −36〜62万円**

つまり、**実質的な投資はほぼゼロ、むしろプラス**です。


リターン:年間850〜1,100万円の機会損失回避

月次早期化によるリターンは、先ほど示した通りです。

  • 売上修正:年間450〜600万円
  • コスト削減:年間200〜300万円
  • 投資判断の加速:年間200万円

**合計:年間850〜1,100万円**

**投資対効果(ROI):850万円 ÷ 36万円 = 約23倍**

これは、極めて高い投資対効果です。

しかも、この効果は**毎年継続**します。1回投資すれば、毎年850〜1,100万円のリターンが得られるのです。


「やらない理由」はもうない

月次早期化は、経営改善の中で最も費用対効果が高い施策の一つです。

でも、多くの会社が「まだやっていない」のです。

なぜでしょうか?

理由は、「緊急性を感じないから」です。

月次決算が遅くても、会社は潰れません。毎日の業務は回ります。

でも、その間に**年間850〜1,100万円の機会損失**が発生しています。

見えない損失だからこそ、気づかないのです。

今日、この記事を読んだあなたは、もう気づきました。

「やらない理由」はもうありません。

明日から、月次早期化プロジェクトを始めてください。

3ヶ月後、あなたの会社の経営スピードは劇的に変わります。

そして、年間850〜1,100万円の機会損失を、利益に変えることができるのです。

 

スピード経営が会社の未来を変える

月次決算の早期化は、単なる「事務作業の効率化」ではありません。

それは、**経営のスピードを上げる**ことです。

将棋の世界では、「読みのスピード」が勝負を決めます。速く正確に読める棋士が、勝ちます。

経営も同じです。

会社の状況を速く正確に把握できる経営者が、正しい判断を下せます。

月次決算が早ければ、「今月まだ間に合う」という感覚で動けます。

月次決算が遅いと、「もう手遅れ。来月頑張ろう」となります。

この差が、**年間850〜1,100万円の機会損失**を生むのです。

あなたの会社では、月次決算は何日後に出ていますか?

もし15日以上かかっているなら、今すぐ改善してください。

その改善が、あなたの会社の未来を変えます。

スピード経営こそ、これからの時代に勝ち残る鍵なのです。

今日から、始めましょう。

 

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