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社長の仕事は「決める」こと──意思決定の質が会社の未来を決める理由

社長の仕事は「決める」こと──意思決定の質が会社の未来を決める理由

「社長、何をすればいいですか?」と聞かれて困っていませんか

「社長、この件はどうしましょうか?」

こう社員に聞かれたとき、あなたはどう答えていますか?「みんなで話し合って決めてくれ」「各部署で調整してほしい」——そんな言葉を返していないでしょうか。

私がこれまで支援してきた経営者の中には、「決めること」から逃げている方が少なくありませんでした。決断を先送りにし、社員に任せ、結果として会社が混乱する。そして、いつの間にか業績が悪化していく——。

社長の仕事とは何か。それは、ただ一つ。「決める」ことです。

商品をどうするか、得意先をどうするか、人をどうするか、投資をどうするか——すべての重要な決定は、社長がしなければなりません。なぜなら、会社の運命を決めるのは社長だからです。

本記事では、社長学の本質と実務経験から、なぜ「決める」ことが社長の最も重要な仕事なのか、そして判断を先送りする経営者がどのような末路を辿るのかを解説します。

社長学の本質——「決定」こそが社長の唯一の役割

社長とは経営をする人である

ある経営コンサルタントは、こう断言しています。

「社長が正しい決定をすると、会社の業績はその瞬間から向上してゆく。反対に、社長が正しい決定をしない限り、何をどのようにしても会社の業績は絶対によくならない」

これは、30年以上経営の現場を見続けてきた私自身も、強く実感していることです。社長の決定の質が、会社の未来を決める。これは紛れもない事実なのです。

では、社長が「決める」べきこととは何でしょうか。

  • 我社はどのような事業をするのか
  • どのような商品を扱うのか
  • どのような顧客を相手にするのか
  • どのような人材を採用するのか
  • どのような投資をするのか

これらすべてが、社長が決めるべき事柄です。そして、これらの決定は、誰にも委譲できません。なぜなら、これらの決定の結果責任を負うのは、社長だけだからです。

「決定」と「実行」は違う

ここで重要なのは、「決定」と「実行」を混同しないことです。

社長が決めるべきは「何をするか」であって、「どうやってするか」ではありません。「どうやってするか」は、それぞれの部署や担当者が考えるべきことです。

たとえば、「新商品を開発する」と決めるのは社長の仕事です。しかし、「どのような仕様にするか」「どのように製造するか」は、開発部門や製造部門が考えるべきことです。

社長が「どうやってするか」まで口を出すと、社員は自分で考えなくなります。指示待ち人間が増え、組織は硬直化します。これでは、会社は成長しません。

社長がすべきは、「何をするか」を明確に決め、それを社員に伝えること。そして、社員がそれを実行しやすい環境を整えることです。

決定を下すために必要なもの

では、正しい決定を下すためには、何が必要でしょうか。

それは、「現場を知ること」です。

社長室にこもって数字だけを見ていても、正しい決定はできません。お客様が何を求めているのか、現場でどんな問題が起きているのか、社員がどんな悩みを抱えているのか——これらを知らずして、正しい決定など下せるはずがないのです。

ある経営者は、「社長は外に出よ——穴熊社長になるな」と言いました。これは、まさにその通りです。社長が社長室に閉じこもっていては、会社の実態は見えません。

私が支援してきた企業の中で、業績が良い会社の社長は、例外なく「現場主義」でした。毎日のように現場に足を運び、お客様の声を直接聞き、社員と対話をする。そうすることで、的確な判断ができるのです。

判断を先送りする経営者の末路

「みんなで決める経営」という名の責任逃れ

「うちはみんなで話し合って決める経営をしています」——そう誇らしげに語る経営者に、私は何度も出会ってきました。

しかし、その実態を見ると、多くの場合、それは本当の意味での「合意形成」ではなく、単なる「決断の放棄」でした。

「みんなで話し合って決めよう」「多数決で決めよう」——一見、民主的で良さそうに聞こえます。しかし、これは大きな間違いです。なぜなら、会社がつぶれたときに責任を負うのは、社長だけだからです。

社員は、会社がつぶれても、別の会社に転職すればいいだけです。しかし、社長は違います。会社がつぶれたら、すべての責任を負わなければなりません。借金も、取引先への迷惑も、社員の生活も、すべてが社長の肩にかかってくるのです。

だからこそ、重要な決定は、社長が一人で下さなければならないのです。これを「ワンマン経営」と呼ぶ人もいますが、私はこれこそが正しい経営だと考えています。

決断を先送りした会社の実例

ある製造業の会社がありました。年商は3億円程度、社員は50名ほど。業績は横ばいが続いていました。

社長は優しい人で、社員の意見をよく聞く方でした。しかし、決断は遅い。「もう少し様子を見よう」「もう少し検討しよう」——そうやって、重要な決定を先送りにし続けていました。

ある時、主力商品の需要が急減し始めました。明らかに市場が変化しているサインでした。新商品を開発するか、新しい市場に進出するか、大きな決断が必要な時期でした。

しかし、社長は決められませんでした。「社員の意見を聞いてから」「もう少しデータを集めてから」——そうやって、半年が過ぎ、一年が過ぎました。

その間に、競合他社は次々と新商品を投入し、新市場に進出していきました。そして、その会社の売上は、あっという間に半減しました。

気づいた時には、もう手遅れでした。資金繰りが回らなくなり、最終的にはその会社は廃業を余儀なくされました。

これは、決断を先送りにした経営者の典型的な末路です。

「検討します」は決定ではない

多くの経営者が、「検討します」という言葉を使います。しかし、これは決定ではありません。単なる先送りです。

「検討する」というのは、「今は決めない」ということです。そして、「今は決めない」ということは、「現状維持を選択する」ということと同じです。

しかし、経営環境は常に変化しています。今日と同じ明日は来ません。現状維持は、実質的には後退を意味します。

だからこそ、社長は決断しなければならないのです。たとえ情報が不十分でも、たとえ不安があっても、決断しなければなりません。なぜなら、決断しないことの方が、はるかに大きなリスクだからです。

正しい決定を下すための3つの原則

原則1:顧客の要求に合っているか

すべての決定の基準は、「顧客の要求に合っているか」です。

ある経営者は、こう言いました。「会社の真の支配者はお客様である」と。

これは、まさにその通りです。どんなに社内で議論を重ねても、どんなに立派な計画を立てても、お客様が買ってくれなければ、すべては無意味です。

私が支援したある食品メーカーでは、「材料費率を下げよう」という方針のもと、商品の品質を落としました。その結果、売上が激減しました。お客様は、味の違いに敏感だったのです。

その後、元の品質に戻したところ、売上はすぐに回復しました。この経験から、その社長は学びました。「コストよりも、お客様の要求が最優先だ」と。

決定を下すとき、常に自問してください。「これは、お客様の要求に合っているか?」と。この問いに「イエス」と答えられないなら、その決定は間違っています。

原則2:我社の強みを活かせるか

次に重要なのは、「我社の強みを活かせるか」です。

大企業と同じことをしても、中小企業は勝てません。資金力も、人材も、ブランド力も、すべてにおいて劣るからです。

しかし、中小企業には大企業にない強みがあります。それは、「小回りの良さ」「顧客との距離の近さ」「柔軟性」です。

ある製造業の社長は、大企業が手を出さないニッチな市場に特化しました。その市場では、大企業の製品は「大きすぎる」「高すぎる」「融通が利かない」と敬遠されていました。

その会社は、小ロット生産、カスタマイズ対応、短納期——大企業にはできないことを武器に、その市場でナンバーワンになりました。年商は5億円程度ですが、利益率は業界平均の3倍です。

決定を下すとき、常に自問してください。「これは、我社の強みを活かせるか?」と。強みを活かせないなら、その決定は避けるべきです。

原則3:未来に向かっているか

最後に重要なのは、「未来に向かっているか」です。

過去の成功体験にしがみついていては、会社は衰退します。なぜなら、市場は常に変化しているからです。

ある老舗旅館がありました。創業100年、地域では名の知れた旅館でした。しかし、時代の変化についていけず、お客様は年々減少していきました。

その旅館の社長は、「昔はよかった」「昔のお客様は戻ってくる」と信じて疑いませんでした。しかし、お客様は二度と戻ってきませんでした。なぜなら、お客様のニーズが変わっていたからです。

一方、同じ地域の別の旅館は、大胆に改革を進めました。客室を洋室に改装し、若い世代向けのサービスを充実させ、SNSでの情報発信を強化しました。その結果、売上は倍増しました。

決定を下すとき、常に自問してください。「これは、未来に向かっているか?」と。過去にとらわれた決定は、会社を衰退させるだけです。

決定のスピードが競争力を決める

「早く決める」ことの価値

正しい決定を下すことも重要ですが、同じくらい重要なのが「早く決める」ことです。

経営環境の変化は、年々速くなっています。競合他社の動き、顧客ニーズの変化、技術の進歩——すべてが加速しています。

この環境下では、「完璧な情報が揃うまで待つ」という姿勢は命取りです。情報が揃う頃には、すでに市場は変わっているからです。

私が支援したあるIT企業の社長は、決断が驚くほど早い方でした。「6割の情報があれば、決める」というのが、その社長の方針でした。

「残り4割の情報を集めている間に、ライバルが先に動く。それよりも、6割の情報で決めて、すぐに行動を始める。間違っていたら、軌道修正すればいい」

この考え方で、その会社は業界内で圧倒的なスピード感を持ち、次々とシェアを奪っていきました。

「間違えたら修正すればいい」という覚悟

決断が早い経営者には、共通点があります。それは、「間違えたら修正すればいい」という覚悟です。

完璧な決定など存在しません。どんなに慎重に考えても、想定外のことは起こります。だからこそ、大切なのは、「間違えないこと」ではなく、「間違えたときに素早く修正すること」なのです。

ある経営者は、新商品を投入しましたが、まったく売れませんでした。しかし、その経営者は即座に判断を変更し、商品のコンセプトを変え、ターゲットを変えました。その結果、3ヶ月後には売上が軌道に乗りました。

もし、その経営者が「もっと慎重に考えればよかった」と後悔し、次の決断を躊躇していたら、会社は大きな損失を被っていたでしょう。

決断を下すときに大切なのは、「完璧を目指さないこと」です。6割の確信があれば、決める。そして、結果を見ながら、素早く修正していく。これが、現代の経営に求められる決断力です。

まとめ:社長の仕事は「決める」こと——逃げずに、向き合う

社長の仕事は、「決める」ことです。

何をするか、どの方向に進むか、誰と組むか、何に投資するか——すべての重要な決定は、社長が下さなければなりません。

決断を社員に委ねたり、多数決で決めたり、先送りにしたり——それは、社長としての責任を放棄することです。そして、その結果は、必ず会社の業績に現れます。

社長学の本質は、ここにあります。

  1. 社長とは、経営をする人である。そして、経営とは「決める」ことである
  2. 決定の質が、会社の未来を決める
  3. 判断を先送りにすることは、現状維持を選ぶことであり、実質的には後退を意味する
  4. 正しい決定を下すには、顧客を知り、自社の強みを知り、未来を見据える
  5. 決断のスピードが、競争力を決める

私がこれまで支援してきた経営者の中で、業績を伸ばした方々には、一つの共通点がありました。それは、「決断から逃げない」ということです。

決断は、時に孤独です。誰も助けてくれません。間違えたら、すべての責任は自分に返ってきます。だからこそ、決断は重く、恐ろしいものです。

しかし、それこそが社長の仕事なのです。決断から逃げた瞬間、社長としての役割を放棄したことになります。

逆に言えば、決断さえできれば、会社は必ず良くなります。社長が正しい決定をすれば、会社の業績はその瞬間から向上し始めるのです。

あなたは今、何を決めるべきですか?

その答えは、社長自身の中にあります。そして、その答えを実行に移すかどうかも、社長が決めることです。

決断から逃げずに、しっかりと向き合ってください。それが、社長としてのあなたの使命であり、会社を成長させる唯一の道なのです。

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